やはりおかしい、上野千鶴子氏の発言

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©️ Kristjan Wager

突然ですが、私はフェミニストです。

ただしこれは、よく誤解されるような「女性のワガママに寛容」とか「女性優遇・レディ・ファースト」とか「女たらし」という意味ではなく、かといって、闇雲に「女性も男性も同じに扱う」ことを主張することでもありません。

私が考えるフェミニストとは、

  • 男性が女性を所有・支配することや女性を性的客体としてしか評価しないことを不正義と感じ、「女性の社会進出」イコール「女性が男性仕様の政治・社会・経済構造に適応させられること」ではないはずだと考える人であり、
  • 「男らしさ」に縛られて男性が自分の豊かな感情を抑圧したり、上下関係の中でしか自分を位置付けられなかったり、孤立したり、自殺率が高かったりする状況を終わらせたいと考える人であり、
  • 性的マイノリティに対して「お前は一体どっちなんだ」と迫るような社会を変えたい、という価値観を持ち、行動に移す人

のことを指します。

女性である必要はありません。むしろ、フェミニストが女性だらけだと、フェミニズムへの誤解がなくなりません。もっと多くの男性がフェミニスト宣言することが求められていると思います。

カナダのトルドー首相の人気の秘密は、イケメンだからというだけではなく、トランプ米大統領の握手攻めへの返しが安倍首相よりも上手だからというだけでもなく、その清々しいフェミニスト宣言にあります(他にも、先住民族への扱いに対する謝罪や、難民への開放的な姿勢などもありますが)。

 

 

こんなことを書いたのは、日本のフェミニズムの大御所である上野千鶴子氏が最近行なったある発言に関する報道に感じたガッカリ感を、「アンチ・フェミ男の言葉」と思われずに伝えたいからです。

実際、社会通念を揺さぶる上野節は、私も好きです。
最近のものだと、「なぜ不倫をしないのか?」という刺激的なタイトルのこれとか、とてもいいと思います。

でも、2月11日付の中日新聞・東京新聞に掲載された、日本の移民・難民政策の今後に関する彼女の発言(リンク先、3つのインタビューの2つ目)は、いただけません。

発言を凝縮すると、次のようにまとめられます。

  1. 日本が人口減少を食い止めるには、「自然増」は見込めないから、移民受け入れによる「社会増」しかない。
  2. つまり日本は、「社会増のために移民受け入れとともに社会的不公正と抑圧と治安悪化に苦しむ」か、「難民含む外国人に門戸を閉ざし、ゆっくりと衰退する」かの選択をしなければならない。
  3. 日本にとって移民受け入れは、客観的には「労働開国にかじを切ろうとしたさなかに世界的な排外主義の波にぶつか」っており、主観的にも日本は「アメリカ・ファースト」ならぬ「ニッポン・オンリー」の社会(単一民族神話を信じている社会)なので、「多文化共生には耐えらえない」から「やめた方がいいと思っています」。
  4. すなわち、残された道は衰退で、「みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい。国民負担率を増やし、再分配機能を強化する。つまり社会民主主義的な方向です
  5. 日本には本当の社会民主主義政党がないが、NPOなど「協」セクターの台頭に希望がある。

これを読んで思わず、Facebook上で嘆いてしまいました。
「上野氏も老害か。結果的に曽野綾子のような言説に」

上野発言のどこが問題かについては、すでに素晴らしい批評が出されています。

  1. 「移住者と連帯する全国ネットワーク」による公開質問状
    特に、「移民増が社会的不公正/抑圧/治安悪化を引き起こすのではなく、その社会にもともとあったそれらが移民・難民に襲いかかるのだ」という指摘は非常に重要。フェミニストが「女性が増えたら差別が増えるから女性はいない方が良い」と言うのに等しい倒錯である、と。
    (ちなみに、安倍首相がトランプのムスリム対象の大統領令に『コメントしない』ことについて、「難民を日常的に追い返している日本が言えることなどないだろう」という最もな指摘がありますが、移住連さん、難民支援協会さん、AAR Japan[難民を助ける会]さんのようなところは、十分正統性を持ってトランプ批判ができると思います)
  2. 望月優大氏による批評
    NPOが国家の再分配と社会保障機能の代替になるかのような主張は成立しないという指摘は、私も全く同感(NPOは、サービスプロビジョンや政策アドボカシーを通じて国家のそういう機能を補完する不可欠な役割を果たしますが、国家機能を縮小してNPOに投げるやり方は、規模でも追いつかないし、サービスの質に格差を生みます。NPOは新自由主義を喜びうる立場にいるが、喜んだら存在意義を放棄したことになります)。

加えて私が批評するとすれば、

  • 日本の人口減少は、戦後の強固な性別役割分担(夫の長時間労働と妻の専業主婦)は、あくまでも「人口ボーナス期」の重厚長大型産業主導の経済発展の時期に一定の合理性があっただけにもかかわらず、歴代の自民党オッサン政権が普遍的な黄金律であるかのように勘違いして、産業構造の変化と「人口オーナス期」に備えて経済・社会の政策・制度の改革を怠ったことに大きく起因している(逆にいうと、妊娠・出産・子育てへの男女共同参画と社会的支援、働き方改革などの組み合わせで人口減少傾向の反転は可能である)という視点が抜けている。
  • 出生率を抑制する長時間労働、子育ての孤立化、子育て費用の個人負担の重さ、将来不安などは、貧困や格差、地方の過疎化といった問題と、新自由主義政策という根っこを共有している。日本の「貧しさ」は新自由主義のせいで起きているのであり、不作為の先にある貧困は、「みんな平等に緩やかに貧し」いどころか、不平等と暴力に彩られた貧困だ。
  • 上野氏は「目指すべきは社会民主的方向性なのに、日本には本当の社会民主主義政党がない」ことを嘆いているが、ここでいう「本物の社会民主主義」とは、おそらく、世界、特に北欧で政治勢力の一角を成してきたものと考えて良いと思われる。しかし、北欧の「本物の社会民主主義」は、経済成長を否定していないし、再分配の原資を成長に頼ってきた。もちろん、アベノミクス的な再分配を犠牲にする成長路線ではなく、「適度な再分配が成長を下支えする」という考えだから、再分配志向ではあるのだが、成長を是としている点では変わらない。
    人口も経済もシュリンクする状況に答えを出せるような社会民主主義の追求は、起きてはいるのだろうけど、それはまだオルタナティブな社会民主主義であって、「本物の社会民主主義」と呼べるものではないと思う。
    「衰退を受け入れた先に社会民主的な方向性」を言うのであれば、それを成立させる条件を提示してもらいたい。
  • 望月氏指摘のNPOについては、上野氏のNPOに対する認識が薄いのではないかと思う出来事が以前にもあった。イラク戦争当時、人道支援や報道の目的でイラクに入った日本人数人が「サラヤ・ムジャヒディン」に捕まったときに小泉政権が出した「自己責任」という結論に対し、批判の世論が起こったが、このとき上野氏は、「NGOに自己責任を押しつけるとは何事」という趣旨のコメントを発したことがある。あれには強い違和感を感じた。人道支援で紛争地に入るNGOは皆、「自己責任」で安全策を取っている。その道のプロである。あのとき拉致されたのは、組織化されたNGOではなく、個人だった。日本社会には「NGO=ボランティア」という誤った認識があるため、彼らのことをNGOと呼ぶ報道が溢れていたが、上野氏もその認識に乗っかった発言をしたわけだ。(お断りすると、私も政府の「自己責任論」には批判的である。NGO云々ではなくて、邦人の安全を守る立場にいる国家がその責務を放棄したと受け取れる発言だったから。また、拉致されてたのがNGOだったとしても、あえてそれを言う必要性はなかったわけであり。

また、私の「老害」発言に対し、FB上で興味深いコメントをもらいました。

「これは上野氏の発言そのものというより、中日・東京新聞が変なまとめ方をしたからではないか」

「上野氏の発言は、『希望的観測』『主観的な解釈』を排した、極めて現実主義的で、社会学者として適切なものである」

「もともとこういう断言調で挑発的に話す人で、それがこの人の強みでは?」

一つ目の、「上野氏の発言よりも、取材側の問題では」という指摘には、もしかしたらそうかもしれない、と素直に思います。東京新聞さんはお持ちの価値観としては日本のマスコミ界でなくてはならないものだと思うのですが、強引なイデオロギー的解釈や、日本語では意味不明になる翻訳なども散見されるので、可能性としてありかな、と。

二つ目のコメントについては、私は、三つ目のコメントにあるように、上野氏は現実を淡々と描写・分析してシナリオを提示する人ではなく、一つの価値観的視座から社会を鋭く分析し、我々を苦しめる社会通念を揺さぶるために挑発的な発言をする人だと思います。アクティビストなアカデミックだと思います。今回の発言だけ「現実主義」に徹したというのは、考えにくいと思います(それに、上記の批評にある通り、そもそも現実認識としておかしい箇所も色々とあり)。

で、三つ目のコメントに照らして考えたのですが、やはりこれも違和感があります。
なぜなら、上野氏の挑発的断定は通常、フェミニズムならフェミニズム的な価値観への気づきを促すような、思い込みへの挑発だと思うのですが、今回の発言は、自然増も社会増もダメという切り捨てと、国家の再分配機能のNPOへのアウトソーシングという無責任な処方箋しか示していないので、通念を揺さぶられた先にベター・ワールドが見えないのです。

2015年の安保国会で登場した学生運動のSEALDs。ある女性メンバーが、こんなスピーチを行いました。

「家に帰ったらご飯を作って待っているお母さんがいる幸せを、ベビーカーに乗っている赤ちゃんが、私を見て、まだ歯の生えない口を開いて笑ってくれる幸せを、仕送りしてくれたお祖母ちゃんに『ありがとう』と電話して伝える幸せを、好きな人に教えてもらった音楽を帰りの電車の中で聞く幸せを、私はこういう小さな幸せを『平和』と呼ぶし、こういう毎日を守りたいんです。」

これに上野氏が噛み付きました。

いや、上野さん、それはその場では関係ないでしょ。ご飯作ってくれたのがお父さんでもこのスピーチは同じだし、例えお母さんが性別分業で苦しんでいたとしても、この人の幸せな思い出は事実なんだし。

そんな記憶が重なることもあって、やはりこの方は、「いってもそんなに貧しいわけじゃないでしょ」という曽野綾子や、「最近の若者は何もわかっちゃいない」と切り捨てる倉本聰や仲代達矢と同じ、「老害」なのではないか、と思うのです。

もちろん、中日・東京新聞が大事な発言を拾い損ねていなかったら、の話ですが。

米国史上最大のデモに?「女性マーチ」開催へ。

昨日、ついにドナルド・トランプが第45代米国大統領に就任してしまいました。
今日、これに異議を唱える人たちが、ワシントンDCを中心に全米各地で「女性のマーチ」を開催するそうです。
タイトルこそ「女性」ですが、ここには環境保護、人権擁護、格差是正など、様々な社会テーマに関心を持つ組織、団体、個人が集結する予定とのことで、キング牧師が率いたあの公民権運動よりも大きなデモ行進になるかもしれないと、英ガーディアン紙が報じています。

私が前職でお世話になっていたオックスファム・アメリカもこれに参加するようで、支持者にも参加を呼びかけています

アメリカではトランプが体現する排外主義、ファシズムの台頭に対抗するため、多くのNOO/NGO団体が活動領域や分野を超えて団結・連帯する動きが広がっているようです。

こういう、市民セクターが組織の論理に埋没せずに、より広い社会的公正に依拠した行動に出ることができるところ、いいなと思います。

一方、ニューヨーク・タイムズ紙によると、マーチに関わる女性運動の中にも、いろいろな不協和音があるとのこと。

曰く、人種的マイノリティや最貧層、LGBTの女性たちから、これまでの米国フェミニズム運動が「在宅勤務」や「女性役員比率の向上」など、「比較的裕福な白人女性が直面する課題」ばかりに傾倒し、貧困女性の最低賃金やセックスワーカーに対する警察の暴力、移民女性を脅かす強制送還などを軽視してきたとして、トランプの女性蔑視に怒る白人女性に対して「何を今さら」という思いもある一方、この抗議行動を機会に、そういった運動内に内在するレイシズムや階層間格差について認識を深める機会にしようという声に対して、白人女性の一部が引いてしまっているとか。

同じような葛藤は、「女性活躍」を叫ぶ安倍政権に対する国内の女性運動の中にもあると聞きます。あれは所詮、女性の「活用」でしかなくて、女性の人権ではないですからね。でも、あれのおかげで女性と労働の問題に政治の光が当たるようになったことも事実で、その機会を捉えるという戦略も、もちろんあるわけです。

アメリカ政治に話題を戻すと、新政権が体現する思想を我々市民が本来この国に託す思想というものに照らして検証し、反対するのであれば抗議するというアメリカ社会の政治性を見て、ズルズルと右傾化する国の住民としては学ぶところはやはりあるように思いました。

米国史上最大のデモに? 今日、「女性マーチ」開催

昨日、ついにドナルド・トランプが第45代米国大統領に就任してしまいました。

今日、これに異議を唱える人たちが、ワシントンDCを中心に全米各地で「女性のマーチ」を開催するそうです。

タイトルこそ「女性」ですが、ここには環境保護、人権擁護、格差是正など、様々な社会テーマに関心を持つ組織、団体、個人が集結する予定とのことで、キング牧師が率いたあの公民権運動よりも大きなデモ行進になるかもしれないと、英ガーディアン紙が報じています。

まるで映画:トランプの恥部?に迫る英国スパイとロシア文書

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2017年1月10日のCNNレポート(cnn.comより)

遅まきながら、明けましておめでとうございます。
前回の更新からずいぶんと時間が経ってしまいました。

約半年ぶりに行われたという1月11日のトランプ米次期大統領の記者会見。日本ではトランプがCNN記者に威圧的な態度で質問させなかったことが話題になっています。同局が前日に、政府高官の間で出回っていたある機密文書について報じていたことについて、トランプが怒り心頭になっていたことが、その理由と言われています。

私は、記者会見での騒ぎよりも、その文書の内容と出自があまりにトンデモで、まるで映画のような展開を見せていることにここ数日夢中になっていて、英語配信のニュースに釘付けになっています。

以下、これまでにわかっていることをできるだけ簡潔にまとめると:

経緯

  • この文書は、ワシントンDCの調査会社「フュージョンGPS」が作成したもの。2015年当初は、大統領選に向けた共和党の予備選でトランプと争っていたジェフ・ブッシュ候補を支持するグループからの依頼で調査が始まったが、トランプがブッシュを退けて共和党の候補になり、ヒラリー・クリントンとの本戦に入ってからは、クライアントが匿名の民主党支持者に移った。
  • フュージョンGPSはこの調査を、イギリスの民間企業向けの調査会社「オービス・ビジネス・インテリジェンス」社に外注。同社は、英国の諜報機関MI6の元職員でロシア関係の専門家であるクリストファー・スティール氏が経営する。
  • スティール氏は前職からのロシア人脈を駆使し、トランプ氏とロシアの関係を調査。その結果、トランプの大統領としての正統性と資質に大きな疑問を投げかける爆弾情報が判明し、米国政治と安全保障の行方を深く懸念したスティール氏は、クライアントの了承を得ることなしに、FBIの知人にこの文書を手渡すという、「常軌を逸した」行動に出る。当時FBIは、大統領選の山場にクリントン候補をめぐる「メール問題」を蒸し返していた最中であり、この件についても捜査を進めているのか否かがはっきりしなかったため、この件が世に問われるべきと考えたスティール氏はさらに雑誌「マザー・ジョーンズ」編集長にも接触し、匿名を条件に取材を受け、この文書の存在を語った。編集長はこのインタビューに基づいて、文書の存在を示す記事を2016年10月に掲載
  • 調査結果をまとめた35ページに渡るこの文書はその後、米英の諜報機関だけでなく、米国メディアの手にも渡ったが、メディア各社は内容の裏どりができなかったため、ここまで報道せずにきた。
  • 一方、CIA/FBI/NSCなど米国各機関のトップは、文書の内容の真偽については確証がないながらも、過去の仕事ぶりから高く評価してきたスティール氏発の情報であることを重視。先週、オバマ現大統領とトランプ次期大統領に、当該情報の存在を知らせるべく、文書の内容を2ページにまとめたメモを提出した。
  • この要約の存在を、1月10日にCNNが初めて報道(内容については大まかな分類のみとし詳細は伝えず、またその真偽が不明であることも強調しつつ)。つづいて、インターネット・ニュースサイト「バズフィード」が、35ページの報告書そのものをトランプ会見の直前に掲載したことから、大騒ぎに。
  • スティール氏は現在、身の安全のために家族とともに行方をくらませている。隣人に3匹の飼い猫の世話を頼んで消えたとされる。

文書の主な内容
大きく分けて2つのことが書かれている。

  1. トランプ氏がモスクワを訪問時にホテルのスイートルームで行なったとされる「不名誉」な性癖の動画をロシア政府が保有している。
  2. トランプ陣営外交政策チームの要員カーター・ページ氏をはじめとするトランプ関係者が、大統領選期間中数回にわたり、ロシア政府関係者と接触。ヒラリー・クリントン候補の支持下落の要因とされた同氏の「メール問題」について、協議をしていたとされる。

何が問題か?
この内容が事実であれば、動画の流出を恐れるトランプ氏が、米国の国益よりも動画を保持するロシア政府の意向に沿った政治・政策を行う恐れが生じます。

プーチン氏は国内政治において政敵を追い落とすために、自身の出身機関であるロシアの諜報機関KGBの常套手段とされるいわゆる「ハニートラップ(蜜の罠)」を多用してきたという事実、

悪びれることなく親族を閣内中枢に起き、国や社会よりも自分の利益を重視するかのようなトランプ氏の姿勢、そして

選挙中からやたらとプーチンを持ち上げきたトランプ氏の言動、

などを見ると、この筋立てがかなりの現実性を帯びます。

米国選挙をめぐる裏工作、英国のスパイ、ロシアの陰謀、機密文書、ハニートラップ、政治の闇の核心を追及するジャーナリストたち…。
登場する人物や出来事や現象が、もうまるで映画。
1976年の名作、「大統領の陰謀」を彷彿とさせます。

今後この件がどこまで追及されるのか(究極的には弾劾にまで進むのか)は、共和党がこの件をどこまで深刻に捉えるかにかかっています。選挙期間中から、トランプ氏に関するいかなるスキャンダルも本人に一蹴され、アカウンタビリティも蹴散らされ、事実か否かは事態の進展に影響を及ぼさないというパターンが続いているので、本件もそうなってしまう可能性があると思います。

私自身はトランプが大統領に民主的に選出されたこと、彼の組閣、彼の政権が行うであろう政策それ自体に非常に危機感を持っており、だからこそしっかりとした政治プロセスを通じて彼が実質的に敗北し、彼の言説や政策が退けられることが人類・社会にとって必要だと考えていますから、仮に、現在はまだ非常に可能性が低い弾劾のような事態に万が一なったとしても、彼を選出したアメリカ社会の治癒、その病巣を育てた新自由主義の除去にはならないため、あまり手放しで喜べないと思います。

しかし、政治スペクタクルとしては今起きていることはなかなかに歴史的だと思うのでしっかりと見届けたいと思います。

最後に、この一件を巡って気に入ったリンクを2つご紹介。

一つは江川紹子さんによる日本のメディアに対する重要な指摘。日頃政治的見解でCNNと対立しているFOX Newsが、トランプのCNNに対してCNNを擁護。日本で権力がある新聞やテレビ局を攻撃した際に日本のマスコミ各社が傍観するということを批判。

もう一つはアメリカで放送されているコメディー番組(↓)。

この動画を見て、件の「性癖」が具体的に何を指すのかわかったのですが(Twitterでトレンディングしていたようですね)、アメリカで大人気の南ア出身コメディアン、トレバー・ノア氏はこのネタでトランプを散々おちょくった挙句、「信憑性が確認できていない情報を流すことはよろしくない」というトランプ陣営の言葉に対して、「本当にそうだ」と言いながら、過去にトランプ自身が「真実かどうかはともかく、多くも人が話してるんだから」と、オバマの出自などについてのデマを流してきたことを「よろしくないよねぇ」バッサリ。

こういう政治風刺が日本でも主流になるといいな、と思うのですが、風刺をするためには、「政治はこうあるべき」という原則的な立場をコメディアンが持っていること、それを一定の規模の有権者(視聴者)が共有していること、その掲載・放送を推進する商業メディアがあること、という条件が必要で、多分私が羨んでいるのは、この番組それ自体ではなく、この番組を成立させている社会的条件なのだろと思います。

ある米国マイノリティ女性からの、苛立ちを込めた嘆願

3000(Spencer Platt/Getty Images)

今回は、最近心を打たれた文章を日本語に訳したものを、私の解釈や意見は添えずに掲載しようと思います。

二つあります。

一つは、トランプ当選後の米国社会で増えていると言われるマイノリティへの攻撃について、ニューヨーク州のクオモ知事による声明。
以下のリンク先に日本語もあるので、そちらをお読みください。

【日英併記】マイノリティに対する攻撃が激化する中でニューヨーク州知事が行った緊急表明(2016.11.12)
https://logl.net/419

もう一つは、原文がこちらにありますが、以下に訳しました。
書いたのは、米国に住むヨーロッパ系の移民で同性愛者の女性のようです。

==
親愛なるリベラルの友人たちへ: あなたはトランプと闘う術を持っていない

リベラルの友人たちへ:
そう、あなたのこと。自分の身に及ぶ危険を恐れる人たちに、「そんなにひどいことにはならないよ」と言うあなた。バーニーを大統領に選出することを可能にするという根拠のない憲法上の抜け穴についてSNSに投稿し続けるあなた。そして、昨日私の顔に向かって、「テリーザ・メイ(英首相)は英国版トランプだから(そのこと自体はそうかもしれないと私も思うけど)、私たちの主張を左翼その他のいろんなグループの主張と差別化すべき」と説教したあなた。

あなたと話をする必要があります。あなたは、自分がいかに浅はかな考えを持っているか、少しもわかっていないから。あなたには、物事の判断基準が備わっていない。なぜなら、あなたはこれまで一度も、あなたに対してあからさまに、意図的に、そして力を込めて敵意を向けてくるような環境に生きたことがない。あなたのこれまでの人生には、このことの理解を手助けしてくれる経験がない。それが問題なの。あなたの無知と動揺が、ファシストたちの思う壺になって、私たちマイノリティに危害をもたらすから。

判断基準を持てるように、3つの文章をお勧めします。
マシャ・グリーンの、独裁体制の下でのサバイバルガイド
これは、プーチン下のロシアで育ったグリーン自身の経験をもとに書いてある。

リベラルの人たちはこの中のルール1番と3番について、理解に苦しむみたい(訳注:サバイバルガイドの6項目を文末に記載しました)。

1番は、「独裁者の主張は額面通りに受け取ること」。
トランプの「300万人を強制送還する」発言について、「あれは選挙向けにちょっと過激に言っただけで、本当にするつもりじゃないよ」などと、一秒たりとも思わないこと。彼の言うことを信じなさい。彼は本気。否定するんじゃなくて、彼が標的にしている人たちを助けるために、これにどうやったら抵抗できるか、考えて。

3番は、「制度はあなたを守ってくれないと悟ること
選挙人たちは別の候補に投じてくれたりしないし、憲法上の抜け穴でバーニーが大統領になることもない。その代わり、トランプは自分の思い通りになる最高裁人事を行って、もし民主党が一つでも州議会選挙を落としたら、すでにトランプにアヒルの子みたいに付き従っている共和党が憲法を骨抜きにするでしょう。今私たちが直面しているのはこういう問題だということを早く認識して、受け入れて、あなたの周りにいる人たちが死なずにすむ方法を考えて。

二つ目は、pookleblinkyがツイッター・スレッドでファシズムが加速度的に広がっていくことを具体的に教えてくれている(↓:開くとスレッドが読めます)。

ハッキリ言って、怖いことが書いてあるわ。でも、物事がこの通りに運ぶ可能性についてナメてかかって後で間違いだったと気づくよりは、そうなることに備えておいて後で間違いだったと気づく方がずっとまし。ここに書いてあることの要点はつまりこういうこと:

<ファシズムは拡大している間はあまり目に見えず、見えてもジョークのように見えるけど、その拡大のスピードに気づいたときはもう圧倒されるくらいそれに囲まれてしまっている。認識が現実に追い付かず、対応策を考えたころにはその策はもう役に立たない。次に考える戦略が有効性を持ちうる時間はその前の時よりも短い。前回ファシズムが台頭した時(訳注:第二次世界大戦時の日本・ドイツ・イタリア)、世界には馬と電報しかなかった。今は瞬時のグローバルなコミュニケーションが可能で、核兵器があって、そこらじゅうに監視設備があって、ほとんどすべての人の生体情報のデータベースがある。これにどう立ち向かえばいいのか、はっきり言ってわからないけど、これだけは言える。人が殺されないようにするために何ができるか、今から考えなきゃいけないということ。>

最後の三つめは、もしこの期に及んでまだ私たちが直面している問題の大きさに納得していないのなら、もしトランプ陣営が大統領職について無知だから結果的に大丈夫だろうと思っているなら、ファシズムの14の特徴を読んでみて。

トランプとその周辺には、このすべてが当てはまる。ついでにメイ首相もけっこう近い。人権軽視、国家安全保障への執着、企業権益の保護、労働者の抑圧、知的階級への蔑視など。何を言っているかわからないなら、あなたが世の中の動きに注意を払っていないということ。そして、この事態を招いた大きな責任がリベラリズムにあるということはぜひ覚えておいて、この状況を切り抜けることができたら総括しましょう

リベラルな友人たちへ。
この状況と闘う術を、あなたは持っていない。それどころか、闘うべき状況があるとも気づいていない。気づくべきよ。それも早く。なぜなら、あなたが気付くほどに状況が悪化したころには、あなたよりも社会の片隅に追いやられている人たちはすでにこの世界から消し去られてしまっているだろうから。だから、その人たちの声に耳を傾けて。黒、もしくは茶色の肌をした女性の声を聴いて。Black Lives Matter運動の声を聴いて。性的マイノリティ、特にトランスジェンダーの女性の声を聴いて。合法・不法を問わず移民の声を。憎悪に囲まれて生きてきた私たちの声を。私たちが導くから、ついてきて。そして、私たちを生かしておくためにあなたにできることを考えて。私たちがいないとあなたは方向性を見失ってしまうのだから。

終わり

独裁体制の下でのサバイバルガイド」で掲げているルールは以下の通り;
1.      独裁者の主張は額面通りに受け取ること
2.      「案外普通じゃん」と安心しないこと
3.      制度はあなたを守ってくれないと悟ること
4.      憤ること
5.      妥協しないこと
6.      未来を信じること

ファシズムの14の特徴」は以下の通り。
1.      強力で持続的な愛国主義
2.      人権に対する嫌悪
3.      敵やスケープゴートの存在で団結を煽る
4.      軍の権限強化
5.      あからさまなセクシズム
6.      マスメディアの支配
7.      国家安全保障への執着
8.      政教合体
9.      企業利害の擁護
10.     労働運動の抑圧
11.     知性と芸術に対する嫌悪
12.     犯罪と刑罰への執着
13.     縁故主義と腐敗の蔓延
14.     不正選挙

トランプ批判のマイケル・ムーアはリベラルか?

Michael Moore
(Barry King/Getty Images)

前回の投稿がソーシャルメディア上で急拡散され、数日の間に述べ約64,000人の方に見ていただくことになり、驚きました。ありがとうございました。

さて、ご存知、ドキュメンタリー映画監督のマイケル・ムーア氏が、「トランプ大統領」の登場に吠えています。彼が辞めるまで徹底抗戦する、と(例えば、この記事)。

彼は、大統領選期間中ずっと、主流メディアが「クリントン投票」の予想をし、テレビ討論でトランプを続けざまに論破するのを見て「ほぼ当確」と報道しても、一貫して「ヒラリー支持者は残念だったな。トランプが勝つ」という発言を続けていたのですが、結果は彼の言った通りになりました。

そのため、今までは彼をキワモノ扱いしてきた米国の主流メディアも、彼に大きな尺を割いて見解を問うようになっています。

彼は、ずっとトランプを厳しく批判してきましたし、民主党の予備選ではサンダースを、本選ではクリントンを応援してきました。前述の通りこれからも「トランプ大統領」に徹底して抵抗すると言っています。それは彼が今までの自分の作品で示してきたように、アメリカ社会で底辺の暮らしを強いられているヒスパニックや黒人の貧困層やマイノリティの権利をずっと擁護してきたからであり、トランプという人物や、彼が実際に行うであろう政策が、これらの人々に危害を及ぼすと本気で案じているからでしょう。

では、トランプを批判するマイケル・ムーアは、リベラルでしょうか。

私は、ムーアは多様性とか寛容とか平等とか人権という意味では、リベラル的な価値観を持つ人だが、彼の存在・アイデンティティ自体は現代米国のいわゆる「リベラル」層とは違うところにあると思います。そして、この間の米国政治におけるリベラルの判断と行動に対して非常に強い失望と憤りを感じていると思います。

なぜか。

彼の慧眼は、彼が開票の3日後に出演した米放送局MSNBCの討論番組を見れば全てわかります(英語のわかる方はぜひ!)。以下に、この番組で特に私に多くの気づきを与えてくれた発言をまとめます。

  • 俺は35歳以上の怒った白人男性で、高卒だ。つまり、典型的な「トランプ支持の人口動態」に属する。そこで育ち、そこに暮らし、今もそこで生きている。大統領選の数週間前のこの番組で、トランプ陣営の最大の支出項目が野球帽だというを取り上げていた。そこでコメンテーターたちは「野球帽?ハッ(笑)」と馬鹿にしたんだ。俺は思った。「ああ、こいつらは(浮世から隔絶された)バブルの中で生きているんだ。(労働者階級にとっての野球帽の意味を)理解できないんだ」と思った。自分もいつも野球帽をかぶってきたし今もかぶってる。このとおり。これが俺たちの生き方だ。それを彼らは嘲笑したんだ。
  • 30年前、レーガンの政策で何万というデトロイト市民が職を失った。彼らの暮らしは一気に暗転し、中間層から転げ落ちた。次にレーガンが航空管制塔の職員を大幅に削減し、労組も闘ってくれなかった時、全てがそこで終わった。その後も労働者たちの状況はどんどん悪くなっていった。
  • トランプの税逃れ疑惑についてトランプが、「それは自分が賢いからだ」と発言した時、メディアは批判しただろ。でも彼の支持者から見れば、「賢いやつ」に見えるんだ。なぜなら、毎日毎日何かの支払いに追われているんだから。「できるだけ政府に払わない」ことをやってのけるなんて、羨望の対象さ。
  • データ主義を信条とする連中は、都合の悪いデータもしっかりと見るべきだ(People who live by data should die by data)。民主党の大統領予備選挙でヒラリー・クリントンよりもバーニー・サンダースを選んだ州は、大統領選で民主党のクリントンではなく、トランプを選んだ。サンダースがヒラリーを追い詰めた時点で、とんでもないことが起きていることに主流派は気付くべきだったんだ。だって、このアメリカで、社会主義者を名乗る人物がヒラリー相手に22の州を押さえたんだぜ。人々がもはや、イデオロギーで候補者を選んでなんかいない証拠さ。2008年と2012年にオバマに投じた人たちは、今年は、「あと8年も中間層を苦しめる大統領はいらない」と、支持先を変えたんだ。
  • トランプ当選を受けて、オバマとクリントンが「オープンな心で、一つになりましょう」と言ったのは、彼らの職務上当然のことだが、俺たち運動側は違う。反対して、抵抗する。(クリントン支持が多かった)西海岸や東海岸だけでなく、全国で。トランプの就任式に『100万人の女の行進』を企画する女性団体もある。就任式史上最大のデモになるだろう。

こんな調子です。
(ちなみに、私は映画や本などでアメリカ人のセリフがやたらとロックンロールな感じに、例えば “I” が勝手に『オレ』に訳されるのが、日本人のアメリカ人に対する「粗野」という偏見を表すようで嫌なのですが、マイケル・ムーアの言葉を訳そうとすると、こうなってしまいすね。困ったな。)

ムーアはトランプ阻止に動いていますが、多くのトランプ批判派がするような、トランプの無知を嘲ったり、トランプ支持者をレイシストとかセクシストと罵るということはしません。彼自身はトランプの暴言はその対象とされた人たちを脅かすものとして徹底的に糾弾しますが、同時にそもそも大半の白人トランプ支持者は彼の罵詈雑言に引かれて支持しているのではなく、自分たちを踏みにじり、何度選挙で意思表示しても無視してきたエスタブリッシュメントの偽善・欺瞞について、「エリートは腐敗している」「奴らは庶民から奪っている」とストレートに言ってくれる候補が(サンダース亡き後は)トランプだけだからだと強調しています。

もちろんあれほどの暴言ですし、実際に多くの支持者たちも「あの発言はひでえ」「奴はどうかしている」とは思っているようですが、エリートの下した政策で自分たちが実際に被った実害を前に、その酷さは相対化されてしまうのでしょう。女性有権者の4割近くが彼に投票していることからもそれが読み取れます。また、マイノリティに対して直接憎悪を抱いていなくても、エリートが労働者階級の窮状を無視して説いてきた「マイノリティへの寛容や包摂」には「欺瞞に満ちたポリティカル・コレクトネスだ」「逆差別だ」と強い反発を感じていても不思議ではないと思います。

貧困家庭に生まれずっと貧困にあることも理不尽ですが、中間層から貧困層に「落ちる」というのは、それとはまた異なる特有の恐怖や屈辱、痛み、喪失を伴うものなのだと思います。先進各国で起きているのはこれで、これが政情不安の原因です。「そうは言っても、白人労働者の暮らしぶりは多くの黒人貧困者と比べればマシでしょ?」という指摘は、客観的にはそうかもしれませんが、当事者の主観的には全く意味をなしませんし、それどころかその発言者の特権ぶりを際立たせる効果しか持ちません。

永くワシントンやニューヨーク、ロサンジェルスから自らの正義に何の疑いもなく寛容や平等を説いてきたエリート・リベラルたちは、白人労働者たちの目につくところで、そういう態度を何度も何度も見せてきたのでしょう。

これはただの憶測ではなく、実際に私自身が所属していた国際NGO業界でもよく見かけました。こういうことに非常にセンシティブな人もたくさんいますし、貧しい家庭の出でその業界に入った人も少なくないのですが、業界全体は高学歴で機会に恵まれてきた人たちの率が高く、「世界のスバラシさ」を知っており、人権や正義についての理論武装もバッチリで、その能力で足元からの異論にも想定問答的に受け答えが出来てしまいますが、結局、その足元の困窮に対しては「外部者」なのです。

あるテレビの街の声取材で、そういうエリートへの制御不能なまでの激しい怒りを表す人の様子が映されています。

この女性、クスリをやっているように見えなくもありませんが、そうだとしても、私には、その奥に、自分の身に降りかかった数々の「こんなはずじゃなかった」出来事、その原因を作った者たちに対する怒りがあるように見えます。そのせいでクスリをしているのかもしれません。

ムーアも、この女性が示すような怒りには心底共感しているからこそ、トランプによってその敵意が向かってはならない方向に向けられてしまうことを必死に止めようとしているのだと思います。

その彼から見て、エスタブリッシュメントの、特にリベラルの、トランプに対する戦い方は、とても歯がゆかったのだと思います。彼は、トランプに惹きつけられる白人労働者たちが、政治をこれまでの「行い」や「体感」に基づいて評価し、だからトランプやクリントンについてもそれぞれが表す「象徴」を見ているということを知っていて、大手メディアやリベラルがいつまでもトランプの「言葉」と「その額面通りの意味」にしか注意を払わず、それを論破することばかりに注力する姿を見て、「こりゃダメだ」と思ったのでしょう。その態度・行いは、トランプが描く「エリート像」そのままなのですから。

アメリカも、レーガン前は(白人に限る話ですが)格差が比較的小さかった時代があったし、ベトナム戦争で苦しんだ人たちも多く、そこから出てきた「リベラル」には血が通っていたのだと思いますが、新自由主義→経済・教育格差拡大→政治エリートの世襲化が進んだ現代、リベラルの多くはコミュニティを持たない、アタマとコトバで作られた「価値観」を語る人でしかなくなってしまっているのかもしれません。そのように見えます。

だとすれば、ミシガン州フリントに生まれ、育ち、おそらくそこで死ぬであろうマイケル・ムーアは、リベラル的価値のために体を張るが、いわゆるリベラルではないのだろうと思うのです。

 

トランプ勝利:日本人は胸に手を当てるべき

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ドナルド・トランプが勝ちました。

世界中のメディアや識者が驚いています。

エコノミストのポール・クルーグマン氏はニューヨーク・タイムズに寄せてこう言っています。
「我々は自分たちが住むこの国をわかっていなかった。オープンで寛容で、民主的な価値観を大切にする人々だと思っていたが、どうやら間違いだったようだ」

このような分析は、私もおそらくそこに分類されるであろう「リベラル陣営」の人間がよくする分析ですが、私はこれ、間違いだと思っています。

Brexitの時も同じでした。「教育を受けてない低所得者層が非合理的な選択をした」と言われました。

今回起きたのは、人々が民主的な価値を軽んじていたのではなく、民主主義の国に住んでいると信じてきたのにあまりにも「非民主的」になってしまった経済の残酷に対して、民主的に意思表明をしたということです。

「アメリカにとって悲劇の日となった」と言いますが、おそらくトランプに投票した人のうちかなりの人たちが、もっと前に「悲劇」を迎えていたのだと思います。

「トランプ支持者たちは自分たちが何をしたかわかっているのか?全てを失うことになるぞ」と言われても、彼ら的には、「もうとっくに失ってるよ。お前らのせいで。お前たちも同じ思いをすればいい」ということでしょう。

ただ、その意思表明のために用意された経路があの金髪トサカ頭の白人至上主義・男権主義的なファシストであったために、ああいう発露になったと見るべきです。

「正義」の言説をリベラル系が独占してきたがために、リベラルの偽善に裏切られ、正義の言説にオーナーシップを感じることができない人たちの力が、「平等」とか「人権」といった価値観を「きれいごと」として拒絶する方向に政治を動かしてしまった。ヘイトがメインストリーム化してしまった。

クルーグマン氏含む「リベラル系」が、そういう状況をちゃんと理解して、バーニー・サンダースを民主党候補にしていたら、トランプ票のいくらかは、スコットランド独立を問う住民投票で表明されたように、サンダースに流れた可能性があると思います(サンダースとトランプのTV討論見てみたかった!)。ただし、米国社会の中年以上の人たちの間では「社会主義的なもの」へのアレルギーが強すぎるので、トランプの勝利は変わらなかったと思いますが)

ただし、これから恐ろしい時代になるということは、おそらくその通りだと思います。

  • 白人労働者階級や貧困への転落を恐れる「中の下」あたりが、他の選択肢もない中トランプに流れたことは、たしかに醜いながらも理解できることだとして、問題は、富裕層や「中の上」あたりにもトランプ支持がかなりの数存在することがわかっており、彼らの動機は排外主義、人種差別、貧困層への侮蔑と嫌悪以外の何物でもなく、まさに「醜悪そのもの」です。推測ですが、自ら壁を建てて周囲と隔絶し、富裕層だけが住むことが認められた「要塞都市」の住民と、かなり重なるグループでしょう。
  • トランプ自身もこの寄生的な連中に近い存在であり、彼が今後大統領として自ら政策にイニシアティブを採るのであれば、トランプに投票した白人労働者たちを含む、いろんな意味での脆弱層やマイノリティに最も被害が及ぶでしょう。
  • つまり、米国社会は正しく根拠のある怒りを表明したが、その表し方が自傷行為的なものになってしまった。

今回の選挙で明らかになったことは、「民主主義を守るのは、民主的な政治制度や手続きではなく、そこで選ばれた指導者が負託に応えて実現する民主的な経済」ということだと思います。

今後、リベラル陣営に求められるのは、新自由主義への根本的な批判であり、経済的弱者の間の連帯を構築することです。

トランプ的な方角から「移民のせいで賃金が下がる」という言説が垂れ流されたら、「賃金を下げてるのは移民ではなく、移民労働者を低賃金で搾取するあなたたち資本家だ」と言うこと。

「移民が社会保障にただ乗りしている」と言われたら、「移民たちは、あなたのような資本家が税逃れしている間にも必死に働いて納税してきた」と反論すること。

これまでCNNやニューヨーク・タイムズはどこまで本気でその努力をしてきたか。
それをせずに、やれ「ガラスの天井を破れ」だの「人種の平等」だのと言っても、なんか白々しいんですよ。

 

翻って、日本。

メディアの皆さん。「トランプ当選?信じられない」的な顔はぜひやめてもらいたい。

そのショックを、石原氏や橋下氏が知事になったときに表現しましたか?
彼らの言ってきたことは、トランプにまったく引けを取りませんよ?

さっきも「欧州の極右政党がトランプ氏当選に祝意」と報じてましたが、「欧州の極右政党」と、現在の自民党主流や「日本のこころを大切にする党」の違いは一体どれくらいありますか?なぜあちらを「極右」と呼び、こちらは「保守」なんですか?欧州では「保守」は「極右」を批判してますよ。

先日、フィナンシャル・タイムズ紙が世界の強権的指導者の一人に我が国の首相をカウントしていましたが、そういう感覚、持っていますか?

胸に手を当ててみれば、我々日本人は米英で起きてることがよーく理解できるはずで、逆に欺瞞に満ちたリベラルだったとしても、クリントンがトランプに接戦できる米国社会の方が、さらに言えばサンダース経由でクリントンを追い詰めた米国社会の方が、まだ健全と言えるのでは?

米英は新自由主義プロジェクトを始めた国。労働組合を破壊し、大企業オンリーの政治をした。その両国でほぼ同時に労働者階級が中指を立てたのは非常に示唆的。日本はこのプロジェクトがかなり遅れて始まったので、経済システムは米英社会ほど壊れていないけど、人権や平等に根ざした足腰が弱いから、米英よりも先に崩れていたと、言えるのではないでしょうか。

小泉進次郎氏らによる「人生100年時代の社会保障へ」の本末転倒と、NPO/NGOへの苦言

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最近、小泉進次郎氏を中心とする自民党の若手議員グループ「2020年以降の経済財政構想小委員会」が「人生100年時代」と位置づける2020年以降の社会保障制度のあり方に関する提言を発表したそうです。

小泉氏のウェブサイトに掲載された「メッセージ」はこちら

その論旨は次のようなもの:

  1. 現在の社会保障制度は少子高齢化と「働き方の多様化」に対応できておらず、モデルチェンジが必要。
  2. 年金給付開始を70歳よりもさらに引き上げ、逆に幾つになっても厚生年金への納付をできるようにする。
  3. 健康保険に、運転免許にならった「健康ゴールド免許」を導入。健康管理に努めた人の医療費負担を軽減する。
  4. 風邪薬や湿布薬などは全額自己負担。

小泉氏は最近開かれた「日本財団ソーシャルイノベーションフォーラム2016」で基調講演を務めるなど、NPO関係者とのつながりもいろいろあるようで、今回の提言についても肯定的に捉える声が一部NPO/社会起業家たちの間で上がっているようです。

NGO出身者として、実はその事実にややガッカリしています。

小泉グループの提言を読んだ私の感想は、

「『社会保障の持続可能性』と言いながら、『社会の持続可能性』を損なう提案ではないか」

というものでした。

そもそも、「IT化などによってライフスタイルが多様化するので、労働者も働き場所を自由に選べるようにする」という現状認識はどうなのか。もちろん、ITが新しい起業を可能にしている面があり、その恩恵を受けている人もいるし、社会的便益もあると思いますが、圧倒的多数の労働者にとって、IT化による余剰人員化は自らの選択でもなんでもなく、問答無用にやってくる環境の大変化ですよね。問答無用にこれまでの生き方を奪われるのを、「多様化」という綺麗な言葉でまとめてしまって良いのでしょうか。

「健康ゴールド免許」も、そもそも「健康とは個人の自己責任と努力によって維持できるものだ」という前提に立ったものですが、健康とはそんなものではありません。世界保健機関(WHO)は、「健康は数多くの社会的要因によって左右されるため、万人の健康のためには社会的要因への働きかけが必要」としています。そこでいう「健康の社会的要因」とは、

  1. 所得と社会的地位
    安全な住宅や食品の安全性など。
  2. 社会支援ネットワーク
    孤立していないこと。
  3. 教育と識字能力(ヘルス・リテラシー)
    貧困やネグレクトが原因で衛生観念や生活習慣を知らされなければ、簡単な風邪の予防すらままなりません。
  4. 雇用・労働環境
    労働による心身への負荷が健康にもたらす影響があることは、ちょっと考えればわかること。その昔、坑夫はみな若死にしたし、現代であれば電通社員の過労自殺に明らか。
  5. 物理的環境
    例えば大気汚染など。
  6. 小児期の経験
  7. 医療
    医療の良し悪しは、健康を決める要因の一要因でしかないことに留意。
  8. 性別
    生物学的な性差もあれば(ホルモンなどの男女の違いを踏まえた医療的対応はまだまだ不十分)、社会が男女に課す異なる役割などにより生じる性差(ジェンダー)も、異なる健康ニーズをもたらす。
  9. 文化
    特定の階層や障害者、少数民族などに対する差別など。

などを指します。

実はこの要因リストに「個人の保健行動とストレス対応」というのも含まれるのですが、それはつまり、小泉氏らは上記のような様々な健康要因をほぼ全て無視して、この一つだけの要因で健康保険で保障するかどうかのふるいにかけると言っていることになるんですね。

「いや、自業自得ではない人は救いますよ」ときっと彼は言うのでしょうが、これだけ様々な要因があることを考えれば、自助努力の有無がほぼ意味をなさない人も、膨大にいるわけです。

この「健康ゴールド免許」構想は、最近「自業自得の透析患者は殺せ」という刺激的なタイトルのブログを書いて仕事を失った自称ジャーナリスト長谷川豊氏が唱えていることと同じで、透析患者の野上春香さん(仮名)がここでしっかりと論破してくれています。

***

「努力の足りない人や、余裕のある人の面倒を国民の税金で見る必要はない。本当に必要としている人にこそ支援を届けよう」というレトリックは、医療費だけではなく、生活保護や子ども支援など、様々なところで使われます。

これ、一見すると非常に人道精神に溢れたもっともな論理なのですが、これがもたらす政治的な結末は、「社会の分断」と「弱者いじめ」です。

社会を分断する理由は主に2つあると思います。

  • 国に救われるか見捨てられるかの境界線を、「本当にしんどい思いをしている人」たちと、「『お前よりもずっと大変な人がいるんだ』と言われたらそうかもしれないけど、それなりに苦しい思いをしている人」の間に引くので、下層の人たちの間に対立を生む。もしかしたら、彼ら全員と、海外に資産を移して税を逃れることで国の財政を圧迫している超富裕層の間に横たわっている圧倒的な格差の方が、政治的に重要な断層かもしれないのに(ていうか、絶対そうでしょ)、そちらは見えなくなる。
  • 行政が「本当の弱者」のためにしか公的資金を使わないのなら、それ以外の人たちは自分が利用しないサービスのために納税することに対して不満を持ち、行政サービスの利用者に対して「あいつらずるい」という感情を抱くようになる。この、「税金を一方的に奪われている感」こそが、有権者の「税嫌い」を生み、社会保障の持続可能性を損なっていると考えるべき。

「弱者いじめ」とは、

  • そこまで切り詰められた、「本当に苦しい人しか受けてはいけない」サービスに頼らざるをえなくなった人は、「人様に迷惑をかける」ことのスティグマを抱え、そもそも受給を控えることになりかねず(実際、生活保護の受給資格者のうち、受給しない人の割合が相当高いと言われる)、もし受けたとしても、自尊心と引き換えに受けることになる。

ということです。本来、人間らしい最低限の暮らしを送るための普遍的権利として人類が勝ち取った制度なのに、利用者が恥辱に耐えなければならないのはおかしい。

このダウンワード・スパイラルを止めるには、社会保障の少なくとも基幹的部分については、「受給資格」で市民を分断するのではなく、

  1. 「みんなが受益する社会保障」をどーんと用意する。
  2. 「応能負担」の原則で税率に傾斜をつけた累進税制でこれを支える(財政赤字がハンパないので、どちらにしても消費税は必要なのでしょうが、そういうことは富裕層や多国籍企業への課税をしっかりと強化してから言う)。

ということが必要だと思います。
儲けを是とし、必然的に格差を生む資本主義がかろうじて倫理性を保ち、また私たちの住む社会の経済システムとして正統性を持つことができるのは、それが富を生むからではなく、生んだ富を社会に還元するからだったはずであり、そのような還元機能を回復させる取り組みに対し、富裕層や大企業は文句はないはずです。なぜかたくさん文句言いますが。

と思っていたら、最近、慶応大学の井出英策という教授が、特に「みんなが受益する社会保障」について訴えていて注目を集めています(例えばこの超面白い対談)。

彼はこのたび、民進党内に設置された「尊厳ある生活保障総合調査会」のアドバイザーになったそうですが、ぜひ、自民党の「小委員会」との間にしっかりとした対立軸を作って、政策論議を戦わせて欲しいと思います。(そしてマスコミの皆さんは、パブロフ的反射で「バラマキ批判」をするのではなく、社会を持たせるのはどちらの考え方なのか、ちゃんと検証してほしい)

「グローバル経済のもと、そもそも国民国家単位の福祉充実など不可能だ」という意見もあると思いますし、事実、国境を超えた税逃れを抑え込む政策協調ができなければ、かなり厳しいでしょう。でも、「社会保障の特別手当化」がもたらすダウンワード・スパイラルがすでに地獄レベルに到達している以上、厳しくてもそちらに舵を切るような政治力が求められていると思います。

最後にNPO/NGOに一言。

「本当に支援を必要としている人」論は、特定の脆弱層への支援活動を行うNPO/NGOの使うレトリックと、非常に親和性が高いものです。だからなのか、こういう言説に対する根本的な批判ができない団体がかなり目に付きます。

どうしても大づかみにならざるを得ない行政サービスでは対応しきれないニーズにターゲットを絞って応えることが、NPO/NGOの強みではあると思うのですが、それは、本来公的な社会保障が大多数の人々を救えている状況でこそ発揮される付加価値のはずです。国全体をカバーすべき公的社会保障をターゲット化する策動に沈黙する、ましてや歓迎するというようなことは、自分たちの仕事を増やすために悲劇を生むことに加担していることになるという構図に、気づくべきです。

その政治的な「イリテラシー」を克服しないと、下に落ちることを恐れて下を蹴落とそうとしている中間層の支持は勝ち取れないでしょう。